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 かみさまかみさま

「かみさまなんていやしない」
 やさぐれを隠しもせずにボンゴレ]世(デーチモ)こと沢田綱吉はぼやいた。その根拠あるいは原因が積み上がった書類なのか幻術の気配が残る執務室かあるいは底なし沼から湧き上がるようにきりのない裏社会の闇なのか、それともマフィアのボスの座そのものなのか、訊く気もなかったので雲雀はふんと鼻を鳴らす。
 綱吉の言う神が人をすくうものなのか祈る対象なのかは知らないが、自分の思うがまま信念のあるがまま生きてきた雲雀にとって、全く意味のない言葉であり存在である。とはいえ興味もないからこそ、雲雀相手に綱吉も零したのだろう。右腕だとか霧だとかはベクトルこそ違えど重そうだし、懐刀辺りは反応が明後日なのが目に見えている。
「いいから手を進める」
「はぁい」
 よい子の返事をした綱吉が書類に集中し始める。ほんの少し輪郭が鋭くなった横顔から、雲雀はふと窓へと視線をやった。
 雲一つ無い空は高い。
 神なんて必要としない雲雀が、その言葉に何かを当てはめ形をなすならば。一番近い存在は君だなんて、思うことさえ腹立たしい。
 そんなもの、な(らな)くていいのだ。

(18.05.14)


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